七夕


※学園ver.(既に二人はいい感じです/笑)






外は生憎の雨。確かな質量を持った雨粒が地面をうちつける。柔らかな霧のような春の雨ならば、幾分心地のいいものなのに、今日の雨は確実な圧迫感をもって、人を部屋に閉じ込める。
 

「折角七夕だってのにな。天の川なんか見たことないな」

指が触れた窓ガラスが少しだけ白く曇った。それを擦って消せば、ガラスの向こうは同じくどんよりとした濃い灰色だった。


「俺は雨も好きだけど」

「でも七夕だぜ?お前こそ、そういうロマンチックなイベントごと好きそうだけど」


窓のカーテンをサーッと閉め、ロックウェルはフレデリックの隣に腰を下ろした。


「うん。でもさ、雨だと必然的に部屋にこもるじゃん。なんかこうしてると、世界に二人っきりみたいな気分にならない?」


そう言ってフレデリックは目を細めていたずらっぽく笑った。
歯の浮くようなセリフをさらりと言ってのける。彼は思ったことを何でもすぐ口にするのだ。
そういう意味ではフレデリックのほうがロックウェルより男らしいのかもしれない。


「俺と二人きりだと嬉しい?」

「楽しいよ」

「俺は嬉しいけど」


フレデリックの柔らかな髪に手を添え、触れるだけのキスをした。彼はくすぐったそうに笑った。

その笑みは初々しい少女のようだった。
素直な笑顔は逆に彼の存在を遠く感じさせた。
自分の言葉は、行為は、彼の心の奥深くまで届かずに、心の浅瀬のようなところでこちらに返ってくるのだ。投げれば跳ね返るボールのように、その反応は反射的に見えた。

彼が笑うのは、相手が自分だからではないかもしれない。
この状況に対する単なる好奇心かもしれないのだ。
思春期の男女が特有に持つ、性に対する興味と似ているもの。


――それでも構わない。
ならば、その時はいつだって自分が隣にいてやる。他の誰にも居場所など与えない。
それなら何の問題もない。






そんな風にロックウェルが決意をしている横で。

もっと強い抱擁を、キスを求めている自分をフレデリックは見過ごすことはできなかった。
そんな時、何を言えばいいのか、何をすればいいのか、その術をフレデリックは知らなかった。
本当は余裕などない。だって隣に座る彼は、何もかもわかったような瞳をしていて、その場に適した言葉を知っている。そんな彼に釣り合うように、必死で自分を作り上げている。

強がりな自分の殻を捨て去る勇気がでないのは、きっと星が見えないせい。





――愛してるから、抱きしめるから、君に触れてほしい。

だって、君がこんなに好きなんだ。